デビル

 アイルランド紛争の悲劇を題材とした映画。
 人類の歴史では、民族の移動や人間の集団移住というものがしばしば行われてきた。多くはその土地で食い詰めた人間や、長子相続制度下の次男坊たちが、新天地を求めて移動したものである。だから移動する人間のほとんどは着のみ着のままだった。しかし、たった一つこれだけは離さずに持って行ったものがある。宗教である。移動していく人間のおおかたはその宗教を抱えて移動して行ったのだ。移動先で、その宗教をベースに職業や生活などの人間関係が形成され共同体の歴史が形成される。ところが人間の共同体というのは、それ自体の自立が許されず、つねによりより大きな単位に統合されようとする傾向がある。経済的効率性や対敵軍事力強化という名目で、多くは力によって統合がなされる。その統合に際し誰しもその中で少数派になることを警戒するのでそこでも一悶着ある。しかしもっと大きな問題が、その共同体が再び復元的に分裂するときに生ずる。一旦統合されたた土地や海の上に線を引いて、さあ元通り分かれて暮らしましょうというわけには行かないのだ。憎悪の宗教たるキリスト教カトリックプロテスタントが対立しているのでアイルランド問題はひときわ陰惨で根が深いような気がする。
 しかし、そもそも自らの宗教の中に必要要素として「デビル」を組み込んでいるのに、IRAという武力闘争派のみを、「デビル」として外化して済ませている。それでいいのか。

1997年 米 アラン・J・パクラ