ある子供

 父権社会の抑圧を解き、女性たる母親を抑圧から解放する。その結果父親は不在となり、母親は自分中心となる。あまつさえ、父親に頑張る理由がなくなったため、生産性も下がり、社会は貧困化する。その結果、彼等の子供たちは一から手探りで生きることを始めなければならない。この映画の描く現実はそういうことだ。少年は働く意欲もなく、盗みに日を送り、赤ん坊まで売り飛ばして平気でいる。母たる少女の赤ん坊への愛だけが救いの映画だが、彼女はよく出来たほうで(その生い立ち等は語られない)、彼らが生きる社会の中で彼女が子供を捨てずにいるのは、何かの僥倖、偶然でしかない。主人公の少年は獄に落ち、最後改悛の可能性を見せるが、彼の手下の年下の少年のほうが恐ろしい。彼は本物の悪党になるだろう。その違いは何によるのか。同じ悪に染まるのにも心の温度差というものがある。年下の少年に扮した子役の俳優はまさに冷血というような面貌をしていた。

2005年 ベルギー/フランス ジャン=ピエール・ダルデンヌリュック・ダルデンヌ