シングル・マン

 ブロークバック・マウンテン」などもそうだけれど、こういうゲイ映画はヘテロな私には感情移入が難しい。それでもこれは映像美が溢れていて結構見せる映画である。初対面の男同士が、同好の士であるかどうか確かめるための、間合いを計る微妙な目つきを延々と見せられるが、その時の男の目の奥に普通の恋以上の「ときめき」の存在が感じられて、いささか幻惑された。「ジェンダー」論の啓発の功で、男女間の性差が消滅してみると、むしろ男性以上にガサツな女性の本性が前面に出てきたように思える。その点、ゲイの性愛の交渉の入り口で、関係性を探して行く手つきには、まだ人間的な繊細さが感じられるのだ。ダニエル・クレイグがいささか修正してくれたけれど、ジェームス・ボンドとボンド・ガールとの何の障害も抵抗もない性愛などには飽き飽きしている、と言うのも愚かである。

2009年 アメリカ トム・フォード