シリアスマン

 評する言葉を失うくらいヘンな映画だ。それは非ユダヤ教徒からみたユダヤ教徒のヘンさ加減でもあるし、ユダヤ教徒から見た非ユダヤ社会のヘンさ加減でもある。日常生活の対人関係の少しづつのズレ、夫婦、親子、隣人、同僚等との関係の食い違いというものは、避けがたいこの世の実相なのだが、一種の諦念でそれに臨む私と、そこに神のご意志を見ようとする一神教徒との間には、どうにも埋め難い溝があるようだ。
 気を持たせたあげくラリーは大学の終身雇用身分をほぼ獲得する。しかしそのときどうやら彼は病魔に犯されていることを暗示して終る。そのとき息子の通うヘブライ学校に竜巻が襲来し、アメリカ国旗が千切れんばかりに旗めいている。そこにどういう象徴処理を読めばいいのかは分からない。そういえばこれはアカデミー作品賞などにノミネートされた映画だった。その評判に幻惑されて映画館に見に行かなくて良かったと思った。映画館などで見たら帰りの道々どんなにゲンナリしたことか。幸い今は家で十分映画的官能(映像と音響)を享受できる環境にある。家でこの映画を見たので、見終わった後はそのまま脱力して、日本人であることに辛うじて感謝しつつ眠れば良いのだった。
 冒頭の、昔の東欧のユダヤ人らしき人たちの話は、あれは一体なんだったのか。
 山本七平日本人とユダヤ人」を再読する必要あり、か。

2009年 米 ジョエル/イーサン・コーエン