ボスタ 踊る幸福の赤いバス

 レバノン版「踊るマハラジャ」という映画。それにしても、例によって説明的なこの邦題。「バス」という意味だけのBOSTAという原題に、たちまち「踊る」やら「幸福」やら「赤い」やらをつけてしまう。余韻と含蓄を重んじる日本語はいずこに。そして、「赤いバス」や「黄色いハンカチ」や「青い鳥」にすぐ「幸せ」を見出してしまう、幸せな日本人。昔、ずばり「幸福」というタイトルのアニエス・ヴァルダの映画があったが、あれは「幸福」が「快楽」に敗北してしまうという映画だった。日本人こそ人一倍快楽に敏感なはずなのに、すぐに「幸せ」という言葉が口に出てしまうのは、現在の日本人が不幸であることの証左なのか。

2005年 レバノン フィリップ・アラクティンジ