菊豆(チュイトゥ)

 名匠チャン・イーモウの手になるこの映画は途中から見ただけだが、それで十分。1920年という時代設定も合わせて、なんだが中国の民俗がひたすら汚らしく見えるだけの映画だった。これが愛欲映画であるせいでもある。汚い野良着を着た女と貧弱な体をした男との愛欲を美的に描くのは至難の技。それにヒロインの不倫に同情するには、その前の、夫の暴力シーンをちゃんと見ていなければならないのだろうが、そこのところは見ていない。
 どういう力学が働けば、このような映画を日中合作で作ろうという気になるものやら。あまり中国の研究にもならない映画ではある。韓国もそうだが、原色だけの中国の「染物」を見ていると、日本の衣料装飾の美的洗練が奇跡的なものに見えてくる、というのが今更のような発見だった。
 もしかして「菊豆」って村上春樹の「青豆」の原型かしらん。

1990年 中国・日本 チャン・イーモウ