マイ・ネーム・イズ・ハーン

 インド映画、恐るべし。「踊るマハラジャ」だけがインド映画ではない。しかし、主人公を実際にオバマ大統領に会わせてしまう話にするのはどうか。これでは「ナンチャッテ」映画に陥ってしまいかねないので、なくてもがなのシーン。アスペルガー症候群である主人公を可能な限りの善的存在として造型したシナリオの力で、最後まで見せてしまう。そして観劇後もしばらくは彼の「善」がわが身にも移るような気がする。しかし、映画の中の「悪」がしばらく身体に残るほどには、ただでさえ「善」というものはあまり体内に残置しない。ましてそれが「自閉症」患者にの上に純化した「善」であるので、たちまち陽炎のように消え去ってしまう。幸福感はしばらく残っても、自分自身はあまり倫理を意識しない普段の自分に、すぐに戻ってしまうのであるが。それにしても、シャー・ルク・カーンの自閉症の演技は完全に「レイン・マン」のダスティン・ホフマンの演技を抜いているのではないか。
 カジャールという女優、ゲジゲジ眉だけれど、恐ろしいくらいのインド美人。明眸皓歯というのを絵に描いたようだ。

2010年 インド カラン・ジョーハル