終戦のエンペラー

 敗戦記念日を狙って、またイヤな映画がやってくる。「終戦のエンペラー」。町山智浩がこの映画ををちゃんと「良くない映画」だと言ってくれたのはさすが。事実を装いつつ完全にインチキな話にしているこういう映画が最もタチが悪い。原作となったのは岡本嗣郎の「陛下をお救いなさいまし」という優れた本である由だが、本の中のキーパーソンである河合道が全く出てこず、単にアメリカ人将校と日本人女性の恋愛モノに仕立てている、のが悪いとの事。「パール・ハーバー」も戦争映画にいい気な恋愛をからませ、事実に反する非軍事施設への機銃掃射を描くなど、東京裁判の続きのような悪質な映画だった。こんな映画にトミー・リー・ジョーンズが出るなんて、コーヒーのCMで稼がせてやった恩を仇で返すようなもの。だいたい昭和天皇に扮した某歌舞伎役者の顔がなっていない。ポスターで見た限りでは、気弱な卑屈ですらあるただの男の顔にしか見えない。そもそも昭和天皇を演じられる役者がいるのか。マッカーサーは体がでかければ誰でも演れるけれど。尤も本物の、決して英雄ではない、卑怯で強欲な男として演じるのなら、演技力はいるかもしれない。もともと戦意高揚策の一環として映画産業は発展してきたが、おびただしくも作られ続けた戦争映画の虚偽はそろそろ暴かれるべきである。