寅次郎忘れな草

 「寅さん」は時々見たくなる映画であることには違いない。賠償千恵子の優雅な加齢ぶりや前田吟の実直な工員ぶりなどがその誘因だ。しかし肝心の寅次郎、彼だけは何度見ても好きになれない。ソトヅラがいいだけのこの男に嫌悪感がいや増すだけ。旅先の女にはやさしくて、寅さん寅さんと懐かれるが、柴又に帰ると、急にやさしさのカケラもない男に変身、妙に威張りちらし、家族やご近所衆につまらないケチをつける。監督は日本人の男の「甘えの習性」をきちんと観察しているとも言えるが、見ていて嫌になるだけ。この寅次郎が出てくると、懐かしくなくもなかった日本の景色も急にみすぼらしく貧しくなり、貧困の風情というものさえ漂わしだす。このシリーズが盆、正月の定番映画として、長く国民に愛されたというのは一つの謎。