イップマン 序章/葉問

 ブルース・リーの師匠たるイップ・マンの伝記的( ? )映画。正編(序章)では日本軍が、続編(葉問)ではイギリス人がそれぞれ人非人として描かれている。少なからぬ日本人はこれを見て不愉快に感じるだろうが、英国人は多分映画だからと全く無視するだろう。このような映画にいちいち腹を立てるのも大人気ないが、実在の人物の伝記が軸だから、事実とフィクションの境目が分からないのが困りものだ。池内某という日本人俳優、どういうつもりでこの映画に出演したのか(香川照之も「鬼が来た」に出ているが)。日本の軍人が中国の武術家と対戦するなどというありえない話に、ブルース・リーの師であるという自分の名誉を接続させて大丈夫なのか。何を考えているのだろう。見るほうも、多分若い観客などはこれを格闘ゲームの実写版であるかのように見做して享楽しているだけなのだろうというのも情けない話ではある。ナタを持った10人を相手にできる人間が、相手が西洋人ボクサーとなるとにわかに弱くなって打ちのめされてしまうのはどういうわけだ。ハナシを盛り上げる為にそんな無理な構成にした映画に、再度言うが、ブルース・リーの師であるという名誉をつなげて大丈夫なのか。これではブルース・リーもボクサーと対戦すれば一発でノされてしまう、と言っているようなものだ。こちらの西洋人俳優は明らかに三流の役者ばかりそろえてあるが、彼らは別にナショナルな帰属は気にしてないだろうから、どんな映画だろうと気にしないのだろう。困った映画であるが、最大の困ったことは、イップ・マン、ドニー・イェンの顔がいいことだ。東洋人で、その存在感で西洋人を圧倒してしまう、というような俳優に私は弱い。しかし、さすがに「レジェンド・オブ・フィスト 怒りの鉄拳」という、さらなる反日アチャラカ映画を見て、ようやくこの俳優を正当にも嫌いになることが出来た。チャンドンゴンを「グッドモーニング・プレジデント」という反日映画で一発で嫌いになったのと同断。

2008年、2010年 香港 ウイルソン・イップ