ステキな金縛り

 いわゆる三谷節バリバリの映画だが、コメディーに対して「現実と接点のない話だ」などと不服を述べるのは筋違いだろうか。しかし裁判を題材にしたコメディーだからこそ、現実にいそうな人間をあたうかぎり完全に近づけた人間、つまり人文的な人間を一人は出して欲しい。例えばこれから法曹界をこころざす人間にとっての理想的人物像たる人間を、少なくとも一人くらい出したほうが、コメディーとして生きる。中井貴一の検事か。なかなかではあるが少し矯激すぎる。裁判官か。いや魅力不足。阿部寛の弁護士、論外。向うの世界の管理局公安 ? ヒロインの亡父 ? いやいや、そのような人文的人物像は出てこなかった。おそらく三谷の映画アーカイブスの中の人物像をちょっとづつ引用しての人物造型(作中、「スミス都に行く」や「素晴らしきかな人生」などが引用されている)なのだが、しかしそれが日本人に適用されるとき、見事に非現実的になってしまう。ニール・サイモンのなどのウエル・メイドなシナリオの日本への適用。しかしそれは洗練を狙えば狙うほど非現実的になるばかりであり、幽霊譚を現実にするという話としては成功しているとはいえない。まだ現実に用がある私などにはあまり笑えない喜劇。

2011年 三谷幸喜