現金に体を張れ

 話を変にひねったりしていない、実にストレートなつくりの映画だが、犯罪映画のサスペンスは充分味わえる。競馬場の窓口係、バーテンダー、(それに警官も)、これらは実に割りにあわない仕事だ。この世のおこぼれに与っているだけの生活。一方、競馬業という利権を持っている奴らは不当なオッズで馬券売上の大半を掠め取る。その売上を強奪する行為は、存在論的地平では正しいのだ、と思わせてしまう、リアルな現実の描写。男らしさが売りのスターリング・ヘイドンの魅力で見せる映画だ。彼は、原題のThe Killingという直截なタイトルがピッタリの役者。これを「現金に体を張れ」という邦題にしたのは秀逸。尤も今の観客が見たらゲンキンと読んでしまうだろうけれど。

1956年 米 スタンリー・キューブリック