愛さえあれば

 このタイトルとピアース・ブロスナンとの組み合わせでは、おのずと敬遠せざるを得ない映画だが、たまたま途中から見たら意外といい感触なのでそのまま見続けた。何と言ってもブロスナンが、得意のボンド風の二枚目風の世之介風ではなく、生の感情を出す演技をしているのが目新しかった。デンマーク映画なので主演女優の名前も何も知らなかったが、トリーネ・ディアホルムというこの女優、実に巧みな演出の効果で際立っている。
 最初は、どことなく「あき竹城」によく似たオバさんだと思っていたが、彼女が全裸でソレントの夜の海を一人で泳ぐシーンから印象が塗り替えられていった。文字通り一糸まとわぬ姿であるばかりでなく、ガンの治療後という設定の彼女は頭髪を全部剃り落としていて、普段つけているウィッグを外しているものだから、その全裸が格段に生々しい。ここですこしこの「あき竹城」に捕まれてしまう。そしてその後である。パーティーに彼女はひときわ鮮やかな真紅のドレスを着て登場する。その赤の鮮やかなこと、マツダの新車アクセラの「ソウルレッド」を思わせる色だ。決してスタイル抜群なわけではないし、この映画の彼女は40才になっているはずだが、あの夜の海の裸体にこの真紅のドレスが被さるときの、何か性的な幻惑の思いは強烈だった。衣装の力というものはすごいものだ。私は一発で魅せられてしまい、ブロスナンもこの姿に、彼女に対する傾倒を絶対的なものにする。のみならず彼女の別れた元亭主すら、若い女に一度乗り換えたことを棚に上げて、もう一度彼女とヨリを戻そうと思うくらいなのだ。
 まるでウッディ・アレンの映画のような語り口の自由さで、楽しめる映画になっている。「恋のロンドン狂想曲」か「ローマでアモーレ」か。
 トリーネの真紅のドレス姿の画像をネットで探したが、どうしたことかあの赤の鮮やかな発色が出ている画像はない。その代りに、彼女が「ペニバン」をつけて、「ミレニアム・ドラゴンタトゥーの女」のノオミ・ラパスをバックから犯しているという、とんでもない画像にぶち当たってしまった。どうやらヌードの露出では定評のある女優のようだ。

2012年 デンマーク スサンネ・ビア