戦争と平和

 風邪気味の中、これまでも何回か放映されているこの映画を見た。一度もまともに見たことがなかったし、今回もサワリだけ見ようと思っていたのに、見出すと結構面白く、3時間半のこの映画を最後まで見終わるという、病中の偉業を達成した。病気のときはいつも既見のノーテンキなアクション映画を見ることにしており、この日も他チャンネルの「ダイハード」に切り換えてもよかったのだが、たまたま古典に気が向いたのが幸いした。それにあの悪名高い悪翻訳文で読むより、はるかに快適に「戦争と平和」という古典を知るという用が足りる。
 まるで妖精のような、貴族の令嬢ナターシャ。同じく青年貴族のアンドレイとピエール。ロシア革命というパラダイムの変換はまだまだ先の話、ナポレオンを迎え撃つ帝政ロシアの貴族社会の、その確固とした貴族の生活様式と美意識の中での、愛の物語だった。汚れを知らぬ妖精でも誘惑されれば堕落する。その贖罪と赦しの物語。戦闘の一大パノラマシーンの壮大さは今でも一見の価値あり。
 「どんなに傷ついても、あなたはそこにそうして雄々しく立っている」というのがキメのセリフか。多分トルストイにもナポレオンを戯画化しようとする意図があったのだろうが、この映画に出てくるナポレオンはいただけない。ただの醜いデブの中年の小男としてしか描かれていない。
 終わって、チャンネルを変えて「ダイハード」の残りの部分を見たが、この種の娯楽映画の耐用年数の短さを思った。やはり、どちらが長持ちするかと言えば「戦争と平和」の方なのだ。しかしこの映画の評価はハリウッド的恋愛映画、というもので、あまり原作に忠実ではないらしい。やはり小説を読まなくてはダメか。

1956年 米・伊 キング・ヴィダー