ハード・ラッシュ

 ハード・ラッシュってどういう意味だろう。通勤時間の埼京線のようなイメージか。
 マーク・ウォルバーグはマッチョ系の俳優だが、時に知的な深い声を出すこともあって、私の好きな俳優のひとりだったが、あるとき「アクターズ・スタジオ」のインタビュー番組で、彼が若い頃の非行をトクトクと話すのを聞いて、いっぺんで嫌いになってしまった。彼はしょっちゅう暴力沙汰を起こし、相手を失明させたり顎の骨を砕いたりしていた。後に彼は反省し、贖罪のための行動もしているという。しかし、インタビューを聞いた限り(内容はいかに学校の先生を困らせたか、というもの)では、反省している素振りは見られなかった。以降、彼の筋肉は単なるゴリラのそれのようにしか見えなくなってしまった。
 「テッド」はスルーしたし、「ローン・サバイバー」も見る気になれないでいる。
 しかるに、他に何も見る映画がない時にこれをやっていたので仕方なく見た、というわけ。
 話は面白い。ウォルバーグ扮する運び屋が一難また一難と、次から次へと窮地に落ち込み、果たしてこれを切り抜けられるのか心配させられるが、いや見事、決して無理のない話運びで無事に解決する。良く出来たシナリオだな、と思ったら、これはリメイクで、オリジナルは2008年の「レイキャビクロッテルダム」というアイスランド映画だという。なるほど、半ばオートマティックに製造されているハリウッド製のシナリオとは違うわけだ。監督はそのオリジナルに主演した俳優である由。
 無理のない話運び、という点には異論があるかも。むしろハナから無理だらけと言ったほうが良く、ただその無理のレベルにムラがないので、一気にひっぱられてしまう。途中少しでも気が抜けるところがあれば、そこでハタと「それってあり ? 」になってしまうだろう。 
 ところで、「ハード・ラッシュ」というタイトルであるが、原題はcontraband( 密輸)で、それに全く別の英語のタイトルを創造してつけているという最近よくある方法。ハードなラッシュというわけであるから、良く分からないながらも、感覚的になんとなく分かるような、まあ悪いタイトルではない。
 どうやら、考案者の意図は、フットボールのランプレイ―ラッシュを意味してのものと思われるが、「カタカナ」というもがあるおかげで、いろいろなものが飲み込め、何でも包摂できてしまう日本語を、「すごい言語だ」と考えておくほうが良いと思う。いまさら「運び屋」とか池波正太郎風に「抜け荷」とか無理やりつけて、純粋な日本語を守ろうとしてもあまりよろしくない。
 ジャクソン・ポロックという画家について不知だったので画像検索したら、その絵をボロキレと思い誰も気づかなかったということに激しく納得した。しかしこのボロキレが1億4千万ドル( !! 1億4千万円ではない。そうだとしてもすごいけど )もするのであって、それが車の荷台に置きっぱなしなので、機械油でもついたらどうするんだ、と思うが、ポロックの画論からすると、それでも全然OKということなのかもしれない。

2012年 米 バルタザール・コルマウクル