男はつらいよ 旅と女と寅次郎

 「寅さん」は基本的に嫌いだし、千円超のDVDなど滅多に買わないし、さらに邦画のDVDは「忠臣蔵」モノくらいしか買ったことがないのに、何とこのDVDを買った。最近都はるみに夢中なので仕方がない。こんなことならWOWOWで「寅さん」を全作放映したときに、録画しておけば良かった。しかしそのときはまだ都はるみは興味のほかだったし、都はるみが「寅さん」に出ていることも知らなかった。
 「寅さん」だから、話は寅さんがフラれておしまいだが、もとより興味はそこにはなく、ただ画面に都はるみが映っていれば十分だった。もちろん歌も歌ってくれるわけで、着物姿の都はるみはゴージャスの極だが、この映画のようにカジュアルな格好で歌ってくれるのも悪くない。
 以上で話は終わり。つまり映画の話より、都はるみの実人生のほうが波瀾に満ちているので、映画で惚れたはれたをやってくれても、そんなに興味が湧かないのだ。そのヒット曲だけで一編のミュージカルを作ってしまえるABBAだが、日本でそれが出来るのは都はるみぐらいか。ミュージカルはともかく、いつかテレビドラマででも「都はるみ物語」は作られるだろうと思うが、それが見たいかどうかは微妙。彼女の劇的なデビューや、その出自の故のいわれなき中傷や、歌謡界の頂点を極めた後の引退と再デビューなど、ドラマティックな要素は多々ある。しかし、よほど制作陣に恵まれないと、特にその不倫の恋や、その相手の自殺などという話は、ただ扇情的に作られてしまう恐れがある。その前に、彼女を演じられる女優がそもそもいないだろう。

1983年 山田洋次