ナイアガラ

 何かこういう著名な観光地をタイトルにした、悲劇的な恋愛映画でも見たいなと思ったが、それはないものねだりというもので、これはモンローのセックス・アピールを頼みにした、ただの娯楽サスペンス映画だ。しかしモンローが悪役という、これはむしろモンローの本来の魅力を引き出した映画と言える。彼女にとっての初めてのカラー映画らしく、そのピンクのドレスの鮮やかさは言うも愚かで、金髪の輝き、青灰色の瞳と真紅の唇も際立っている。またこの映画で初めてモンロー・ウォークを披露したらしい。 
 しかしどういうわけか男優陣に魅力なく、ジョセフ・コットンは服装から何からカッコ悪いし、もう一組の夫婦の旦那がまたひどく滑稽だ。別に揶揄的にそう描いてるわけではなく、その上役の経営者ともども典型的にプラグマティックなアメリカ人を描いているだけなのだが、殆ど悲劇的なほどの喜劇性を見せている。唯一、話を引き締めるべき役割の刑事も、魅力という点ではモンロー・ウォークをしているモンローの、そのスカートの皺一本ほどの魅力もない。
 かくてナイアガラの壮大な瀑布に対抗できるのは、弱気な善人コットンの妻への執着でもなく、健康なアメリカ人たちの能天気な幸福でもなく、退屈だけは我慢できないモンローの、死を代償にした放蕩と不実だけのように思われた。


1953年 米 ヘンリー・ハサウェイ