飢餓海峡

 原作は水上勉の傑作小説なので当然見たいと思うが、主演が三國連太郎なので、彼のアクの強い演技が好きになれない自分はすこし躊躇した。しかし、伴淳三郎の刑事は多分一見の価値があるだろうと思い、結局見ることにした。
 見れば悲劇の女性八重を演ずる左幸子はまだ若くてチャーミングだし、後半若い高倉健も出てくるし、堂々三時間の力作である。内田吐夢の迫力ある動的撮影法がなかなか見せる。最後に警察の大失態と言うしかない事件が起きる。原作ではどうなっていたっけ、と本を引っ張り出して確認したら、ほぼ映画と同じだった。主人公の悲劇性を完成させるための筋書きとは言え、観劇を通して、主人公よりもかなり警察の方に感情移入しているから、警察の大失態で終わるというのはむしろ残念な気がした。これも主人公を演じたのが嫌いな役者のためか。
 伴淳は期待通りだった。彼が時折、長渕剛によく似た表情を見せるのは一興。
 モノクロ画面で、昭和の貧困の詩に触れる、というは懐かしくも嬉しい観劇体験である。

1965年 内田吐夢