ハノーバー・ストリート 哀愁の街角

 見る気もあまりないが、たまたまた録画しておいた映画で、ほかに見るものがない日、仕方なくこれを見た。
 ただの不義蜜通の話を恋愛モノにして、交情の場面ではひたすら天上的な音楽が流される、という見るに耐え難い映画。ただイギリスのスパイの話が絡ませてあるので、どうなるかと最後まで見てしまったが、こちらもただアチャラカな話だった。演歌の世界なら「愛しても愛してもああひとの妻」とその恋情には共感できもしようが、そもそもバスを待つ列の割り込み合戦から出会うというドライな欧米人に対して「もののあはれ」の感情なと湧きようはずもなかった。若い男女が互いの体を貪りあうという話なので、それならそれで「郵便配達は二度ベルを鳴らす」のようにロコツにしてくれれば、こちらも欺瞞、偽善に身もだえすることなく、見れるというものだが。爆撃機の操縦士が週一回の休みをしっかり取りつつ、まるで会社に出勤するように爆撃に出かける、という余裕に、戦争に負けたほうの当方としては、ひたすら悔しい思いがし、フランスのレジスタンスとそのシンパに助けられたくせに、いざ自分が危うくなると、そのシンパの納屋に火を放って逃げてしまうというのも、見ていて呆れる思いがした。あまりにつまらないので、若いハリソン・フォードの、せっかくの稜線鋭い美貌を堪能することもできず。

1979年 ピーター・ハイアムズ