アリス・クリードの失踪

 「誘拐」なのにわざわざアリス・クリードの「失踪」disappearanceとしているのは、Alice(真理)、Creed(信仰)の「消失」という含みがあるのだろう。登場人物三人の間の二つの誠実と信頼が文字通り消失するのである。邦題も知ってか知らずかそのまま訳してくれた。これが「誘拐 ! 少女監禁」などという題にならなかったのは僥倖である。「007 慰めの報酬」でその無垢な裸体を見せてすぐ殺されたジェマ・アータートンが、本作では手錠につながれ、衣服を剥ぎ取られ、公然と排泄を強いられ、とまるでその手のマニアなら垂涎もののシーンを見せる。観客は彼女の放つ危険なフェロモンにあてられるが、でも大丈夫、誘拐犯の男二人は○○なので。さほどひどいシーンがないのは救いだが、観客は性的欲求は満たされないし、彼女が無事救出され愛の元に帰るというカタルシスも与えられないし、現実そのもののような息苦しい思いから解放されないまま映画は終わる。アリスもクリードもない世界とはこのようなものだ。

2009年 英 J.ブレイクソン
The Disappearance of Alice Creed